静岡で震度5強、宮城でも震度3 「前震ではないか」と騒ぐ前に知っておきたいデータと理屈
8日未明に静岡県西部を震源とするM5.7の地震(愛知県で最大震度5強)、9日朝には宮城県沖でM4.5(最大震度3)。SNSでは「南海トラフの前触れか」「東日本大震災の前も前震があった」といった声が広がった。公式データと地震学の整理から、懸念の中身と確率の実像をまとめる。
この2日間に起きたこと
まず事実関係を並べる。11月8日午前1時04分、静岡県西部を震源とするマグニチュード5.7の地震が発生し、愛知県知多市で最大震度5強を観測した。震源の深さは41キロ。震度5弱は愛知県の瀬戸市や豊田市、静岡県浜松市浜名区など広い範囲で観測され、浜松市では3人が軽いけがをした。津波の心配はなかった。
続く9日午前5時16分には、宮城県沖を震源とするマグニチュード4.5の地震が発生。深さは約50キロで、宮城県北部・中部と岩手県内陸南部で最大震度3を観測した。こちらも津波の心配はない。
気象庁は静岡県西部の地震について、「南海トラフ地震の想定震源域の中で発生した地震」とした上で、「この地震の規模から、南海トラフ沿いのプレート間の固着状態の特段の変化を示すものではないと考えられる」との見解を示している。
南海トラフ地震臨時情報は「出る規模」ではなかった
「臨時情報は出ないのか」という声も見られたが、制度の基準に照らせば、今回の地震はそもそも検討の入り口にも立っていない。
南海トラフ地震臨時情報は、想定震源域とその周辺でマグニチュード6.8以上の地震が起きた場合などに、まず「調査中」として発表され、専門家による評価検討会が開かれる仕組みだ。その先の「巨大地震注意」はモーメントマグニチュード7.0以上の地震が想定震源域内のプレート境界で起きた場合、「巨大地震警戒」は8.0以上の場合に発表される。2024年8月の日向灘の地震(M7.1)で「巨大地震注意」が初めて出されたが、今回のM5.7とは規模がまったく違う。
「3.11の前にも前震があった」は本当か
事実として、本当である。2011年3月9日午前11時45分、三陸沖でマグニチュード7.3の地震が発生し、最大震度5弱を観測、大船渡では55センチの津波が観測された。
ただし、決定的に重要なのは当時の扱いだ。気象庁は3月9日の地震を「本震」として発表し、後に続く地震をその「余震」と説明していた。2日後の3月11日にマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生して初めて、9日の地震は「前震だった」と整理された。気象庁は11日の会見で両地震の震源が極めて近く、同じプレート境界型であることから「前兆と考えるのが当然」との見方を示したが、それはあくまで結果を見た後の判断である。
前震は、事前には分からない
これが地震学の出発点だ。気象庁の定義では、前震とは「一連の地震活動において、最も規模の大きな地震に先立って発生する地震」のこと。つまり「前震」という呼び名は、本震が起きてからでなければ確定しない。発生した瞬間の観測データだけでは、その地震が前震なのか、単独の地震なのかは原理的に判別できない。
では、大きな地震の後にさらに大きな地震が続く確率はどれくらいか。地震調査研究推進本部の統計では、日本で発生したマグニチュード5.0以上の地震(余震を除いた563事例)のうち、後にそれより規模の大きな地震が続いた事例は35件、割合にして6%にとどまる。海外の事例では2.2%だ。
北海道・三陸沖で使われる「後発地震注意情報」の根拠となった世界の統計でも、マグニチュード7級の地震の後、7日以内に同じ領域でマグニチュード8クラス以上の地震が発生した割合は、おおむね1%程度とされる。ただし、これは平常時の発生可能性の十倍程度に相当する。公的な整理を正確に言えば、「確率は低い。だが、平時と比べれば桁違いに高い」となる。「騒ぐな」でも「無視してよい」でもない、というのがデータの示すところだ。
宮城県沖は南海トラフとは別のシステム
もう一つ、地理の整理が必要だ。宮城県沖の地震は日本海溝沿いの地震で、太平洋プレートが陸側のプレートの下に沈み込むことで起きる。フィリピン海プレートが原因の南海トラフとは、プレートの組み合わせも震源域も全く別のシステムであり、政府の長期評価でも別枠で扱われている。2つの地震が続いたからといって、物理的に連動を示すものではない。
むしろ宮城沖で意識すべきは、繰り返し発生してきた「宮城県沖地震」の方だ。M7.4前後のプレート間地震が平均38年ほどの間隔で繰り返すとされ、政府の長期評価では今後30年以内の発生確率は80%〜90%程度以上と、最も高いランクに位置づけられている。前回にあたる活動は2005年で、1978年の宮城県沖地震(M7.4)では死者28人、住家全壊1,183棟の被害が出た。
対照的に、2011年型のマグニチュード9級の超巨大地震そのものの再来は、平均発生間隔が約550〜600年と長く、政府の評価では今後30年以内の確率は「ほぼ0%」とされている。切迫度という観点では、日本海溝のM9級再来よりも、宮城県沖のM7級や、平均間隔を超えて切迫性が高いと評価される千島海溝の超巨大地震(30年確率7%〜40%)の方が上位に来る。
南海トラフの「確率」の読み方
南海トラフの巨大地震については、政府の長期評価(2025年9月改訂)で計算方法の異なる2つの値が併記された。発生確率の高いモデルでは今後30年以内に60%〜90%程度以上、もう一方のモデルでは20%〜50%という幅のある数字になっている。政府は防災上、より高い方の値を念頭に行動するよう求めている。南海トラフ地震は歴史上、概ね100〜150年間隔で繰り返してきたとされる地震であり、「いつ起きてもおかしくない」という評価自体は、今回の地震があろうとなかろうと変わらない。
結論:予知はできない。だから備えを点検する局面
個別の地震から巨大地震の発生を予知することは、現在の科学ではできていない。一方で、地震が続いた時に感じる不安そのものは、統計が示す「平時よりは高いが、それでも低確率」という現実と付き合うための自然な反応でもある。
合理的な行動はシンプルで、家具の固定、備蓄と水の確認、避難経路と家族との連絡方法の確認といった、「いつ来ても同じ備え」をこの機に点検することだ。そして、気象庁の最新の地震情報と、臨時情報のような公式発表の有無を確認すること。情報の出所が公式かどうかが、不安な時ほど判断の分かれ目になる。
▼ 確認できた事実
・11/8 01:04 静岡県西部 M5.7・深さ41km、最大震度5強(愛知県知多市)、浜松市で3人軽傷
・11/9 05:16 宮城県沖 M4.5・深さ約50km、最大震度3、津波の心配なし
・南海トラフ地震臨時情報の調査開始基準はM6.8以上。今回のM5.7は対象外
・2011年3月9日の三陸沖M7.3は当時「本震」と発表され、3.11のM9.0発生後に「前震」と整理された
・後にさらに大きな地震が続いた割合は国内統計で6%(563事例中35件)
・宮城県沖地震(M7.4前後):30年確率80%〜90%程度以上、平均間隔38年
・2011年型M9級の再来:30年確率ほぼ0%(平均間隔約550〜600年)
▼ 今後の焦点
静岡県西部の地震について気象庁は「固着状態の特段の変化を示すものではない」との見解。宮城県沖は南海トラフとは別システムで、公式評価で切迫度が高いのは繰り返し型の「宮城県沖地震」(M7.4前後)の方。前震の判別は事後にしかできず、大きな地震の後にさらに大きな地震が続く確率は統計上6%程度とされる。